■商品概要
「地獄」を覆う新緑
六月初旬、草津温泉のほど近くにあるチャツボミゴケ公園(群馬県中之条町、標高約一二〇〇メートル)では、コケの深緑と、厳しい冬を越し梅雨の訪れとともに見ごろを迎えたレンゲツツジの朱色が、お互いを引き立て合うように主張し始めた。
公園の一帯は一九六六年まで「群馬鉄山」として栄えたが資源の枯渇とともに閉山した。コケの群生地のある「穴地獄」と呼ばれる場所では、数カ所に掘られた穴から強酸性の鉱泉が湧き出している。
世界中のコケの中で最も耐酸性が強いといわれるチャツボミゴケはこの環境を好み、閉山後に一気に増え、現在では東アジアで最大ともいわれる規模になった。
水に含まれる鉄の成分はコケに付着し、長い時間をかけて鉄鉱石に変化するという。目の前に広がるビロードのような景色がいずれ鉄になる―。予想もできない自然の神秘がロマンをかきたてる。
公園管理者の山本琢馬さん(47)は「夏場はコケが茶色になってしまいます。秋になるとモコモコになったコケのじゅうたんと紅葉のコントラストが楽しめるので一番オススメですよ」と話す。(写真と文・平野皓士郎 紙面構成・折尾裕子)
紙面より一部抜粋(2023年6月18日発行 東京新聞朝刊)