■商品概要
都心から電車、バスを乗り継ぎ約二時間。「神戸(かのと)岩入口」で下車し、川のせせらぎやセミの声を聞きながら、集落やキャンプ場を通り越す。緩やかな坂を上ること約四十分、林道の突き当たりに、都指定の天然記念物・神戸岩がそびえていた。一対の巨大な岩盤の高さは右が約百メートル、左が約八十メートル。二億五千万年前のチャート質の地層が露出し、迫力満点だ。
岩盤の間にある全長約六十メートルの遊歩道は、人がすれ違うことができないほど狭い。はしごを上り、岩に打ち付けられた鎖を頼りに進む。足元では幅約四メートルの渓流が、ごう音を響かせる。谷底から昇ってくる風は天然のクーラーのようにヒンヤリと涼しい。
渓谷の奥には平たんな岩場が広がり、真夏の日差しが生い茂った木々や水辺、小さな滝をキラキラと照らし出していた。透き通った流れに足をつけると、つま先がしびれるほど冷たい。荒々しい渓流と穏やかな清流のコントラスト。大自然の恵みに全身が包まれるような感覚を受け、「パワースポット」と称されるのもうなずける。
神戸岩の由来は諸説あるが、檜原村観光協会によると、両開きの扉のように向かい合った岩盤の隙間の延長線上に大嶽神社の本宮があるため、神域の出入り口を意味する「神の戸岩」から神戸岩となったという説が有力だ。(文と写真・中西祥子 紙面構成・宮本直子)
紙面より一部抜粋(2023年8月20日発行 東京新聞朝刊)