■商品概要
朝6時過ぎ、山際から朝日が差し込むと、刈り取りを待つ稲穂が黄金色に輝いていく。埼玉県横瀬町の寺坂棚田。あぜ道には、白い彼岸花のリコリスが咲き誇っていた。
日が昇るにつれ、残暑に汗がにじむ。陽光から逃れようと、棚田を見渡すあずまやでひと休み。こうべを垂れる稲穂の上をトンボが飛びかい、秋の虫の声はうるさいほどで少し笑ってしまう。吹き抜ける風が心地良く、深呼吸すると穏やかな気持ちになった。
一帯には懐かしい里山の風景が残り、のどかな姿を今に伝えている。ただ、25年ほど前は後継者不足などで大部分が耕作放棄地となり、荒れ果てていたそうだ。再生を目指し、所有者や地元農家が協力して稲作体験や棚田オーナー制度などをスタート。赤い彼岸花とその園芸種のリコリスも植えられた。息の長い活動が実り、昨年には農林水産省の「つなぐ棚田遺産」に選ばれるほどによみがえった。
町振興課の関口和則さん(52)は「都心から特急電車で70分あまりで、昔ながらの景色を見られる。ぜひ足を運んでもらえたら」と笑顔で話した。今月下旬から来月にかけ、赤い彼岸花も咲きそろう。(文と写真・由木直子 紙面構成・宮本直子)
紙面より一部抜粋(2023年9月17日発行 東京新聞朝刊)