■商品概要
秋風に誘われ、埼玉県滑川町と熊谷市にまたがる国営武蔵丘陵森林公園を訪れた。入り口から続く薄暗い森の中を歩いていくと、鮮やかな色が次々と目に飛び込んできた。なだらかな丘の斜面に赤、黄、ピンク、ローズ、オレンジ。5色の「ウモウゲイトウ」が咲き誇り、ストライプ模様を織りなす。園内の約8千平方メートルに、昨年の倍となる約80万本が花穂を揺らしていた。
「ケイトウ(鶏頭)」はニワトリのとさかに似ていることから名が付いた。中でもウモウゲイトウは「羽毛」のようにふわふわした長い花穂を付けるのが特徴だ。
爽やかな青空、穏やかな陽気。花々の間をチョウやハチが飛び交い、羽を休めるうららかさに、今は春かと勘違いしそうになる。そんな視野の端に、ひときわ強く主張をしてくる色があった。
炎が燃え上がるような赤色だ。「ふわふわ」と先述したが、その花穂に宿るのは力強さ。周りを赤トンボたちが、それぞれの好みの一本を選ぶように飛ぶ。他には目もくれず、その色だけに引かれるように。お気に入りが見つかると、何時間も止まり続ける姿が印象的だった。
夕暮れの近づいた帰路でケイトウについて調べた。学名の「セロシア」はギリシャ語の「燃焼」に由来するとわかり、駅のホームで得心した。
炎のような熱を帯びた「赤色タッグ」が夏を送り、秋を呼び込んだように思えたからだ。(文と写真・平野皓士郎 紙面構成・折尾裕子)
紙面より一部抜粋(2023年10月15日発行 東京新聞朝刊)