■商品概要
ゴツゴツとした岩肌を、前日から降り続いた雪が覆っている。雲間から陽光が差し込むと、白と黒のコントラストが目に染みた。
群馬、長野両県にまたがる浅間山(2568メートル)のふもとにある鬼押出し園(群馬県嬬恋村)は、コロナ禍で休業していた冬季営業を4年ぶりに再開した。
山肌にあふれる巨岩は江戸時代半ばの1783(天明3)年、浅間山の大噴火で生まれた。今から240年ほど前のことだ。流れ出た溶岩が冷えて固まり、一帯を埋め尽くした。名前の由来は定かではないが、噴火口で鬼が暴れ、岩を押し出しているように見えたことから呼ばれたとされる。
噴火の影響はすさまじく、多くの命が失われた。園内には犠牲者を弔うお寺もある。
雪が積もりそうな日を狙い、数日間通った。伸ばした一脚の先にカメラを取り付け、手元でリモート撮影した。氷点下10度の日は冷たい風が体を突き刺し、気温が上がった日には黒い溶岩が顔をのぞかせた。
モクモクと噴煙を上げる浅間山を背にすると、県境の山々が見渡せる。自然が織りなす崇高な美しさ。畏怖の念とともに、澄み切った空気を吸い込んだ。(写真と文・布藤哲也 紙面構成・保立真克)
紙面より一部抜粋(2024年1月28日発行 東京新聞朝刊)