■商品概要
ひょいっ。ツルハシのようなくちばしを器用に操り、地中の虫を口に放り込む。他の野鳥が近づくと立ち止まり、頭の黄金色の羽をパッと広げた。
渡り鳥・ヤツガシラとの出合いは偶然だった。4月1日、神奈川県内で野鳥を撮影中、居合わせた愛好家の女性が美しい写真を見せてくれた。「さっき撮ったとこ。まだいるはず」
1時間ほど車を走らせ、女性が撮影したという県内の森へ。日没まで残り1時間。息を潜め、シャッターを切った。
全長28センチ前後。主に旅鳥(たびどり)として飛来する。旅鳥とは渡り鳥の一種で、南方で越冬し、北方で繁殖する。春と秋に日本に立ち寄るが滞在期間が短く、なかなかお目にかかれない。日本野鳥の会神奈川支部によると、県内で見られるのはまれという。
興奮したときや相手を警戒・威嚇するとき、冠羽(かんう)と呼ばれる頭の羽を広げる。名前の由来もこの羽で、「八つ」には数が多いという意味がある。
もう一度撮りたいと、翌日の夜明け前から張り込んだ。情報が広まったのか、昼には100人ほどの愛好家が待ちわびたが、現れなかった。しっかり栄養補給し、北に向かったのだろう。
「一度は見てみたい鳥」。カメラをバッグに収めながら、隣にいた男性の言葉をかみしめた。
紙面より一部抜粋(2024年4月28日発行 東京新聞朝刊)