■商品概要
前日の雨でしっとりと水分を帯び、ガラス細工のように透き通った花びら。はかなげにたたえていたしずくが、ぽたりとこぼれた。
6月初め、新潟・群馬両県にまたがる谷川岳・一ノ倉沢(群馬県みなかみ町)の雪が残る渓流沿いで、サンカヨウ(山荷葉)がひっそりと咲いていた。
高山植物の仲間で、1円玉ほどの大きさの白い花を咲かせる。水分を含むと花びらが透明になることで知られ、「スケルトンフラワー」とも呼ばれる。
なぜ透明になるのか。日本花の会(港区)によると、花びらはそもそも白い色素を持っておらず、細胞のすき間にある空気の泡が光を乱反射するため、白く見えるのだという。
試しに白い花びらをギュッとつまむと、中の空気が押し出されて透明になる。同じように、雨や朝露にぬれて細胞のすき間が埋まると、光が通り抜けるため、透き通って見えるという。
花の寿命は1週間ほど。衝撃に弱く、花びらは強い雨や風で落ちる。乾燥すれば白い姿に戻ってしまう。
その神秘性に翻弄(ほんろう)されながら、数日間通った。びしょぬれの地面に肘をつき、シャッターチャンスをじっと待つ。しずくがこぼれた瞬間、大きく息を吐いた。(写真と文・布藤哲矢)
紙面より一部抜粋(2024年6月23日発行 東京新聞朝刊)