■商品概要
丹沢山地の新茶の収穫は5月初旬、最盛期を迎える。南麓にあり、神奈川県で唯一の盆地に位置する秦野市の茶畑の大半は、かつてタバコ畑だった。
江戸時代の富士山噴火の降灰で田畑が壊滅。火山灰土でも育つ秦野の葉タバコは三大銘葉となり、収益は明治初期、コレラを防ぐ近代水道敷設を支えた。給水は国内最古の横浜市などとほぼ同時期だが、国策や行政主導の他市とは異なり、計画、施工、資金調達も住民が担う自営・陶管水道だった。40年前に終了したタバコ耕作への感謝は、秦野たばこ祭として今も続く。
足柄茶と総称される茶栽培は、関東大震災で荒廃した丹沢南西部の清水村(現山北町)の村長が自費で調達した苗を農家に配ったのが始まり。戦後の復興策で丹沢・箱根山麓一帯へ広まり、来年で栽培100周年となる。
水はけのよい火山灰土、山特有の局地的な私雨(わたくしあめ)や朝霧、短い日照時間が苦味を抑え、うま味を増す。販売は県内中心だが、JAはだの茶業部の山口勇部長(66)は「2027年度の新東名高速全線開通で、県外客にも身近になれば」と願う。匂い立つ足柄茶に歴史も思いも熱く溶け込む。(西岡聖雄)
紙面より一部抜粋(2024年5月7日発行 東京新聞朝刊)