■商品概要
ひょうたん島に渡っちゃおう!
日本有数の秘境駅で知られる南アルプスあぷとライン(大井川鉄道井川線)の奥大井湖上駅を7月下旬に訪れた。駅からレインボーブリッジ(鉄橋)の脇の遊歩道を歩いて約20分。展望台から見下ろす駅は、接岨(せっそ)湖(長島ダム)に浮かぶ小島のように見える。実際は突き出た半島の先端部分なのだが。青緑色の湖面は神秘的だ。その時、四両編成の列車が現れた。緑の大自然と赤い列車が織りなす絶景に息をのんだ。
奥大井湖上駅は1990(平成2)年10月に開業した。標高490メートル。井川線の一部がダム湖に沈むことになり、湖上を渡る線路と水没した犬間駅に代わる同駅がつくられた。駅周辺に民家はないが、今では海外からも大勢の観光客が、この秘境駅を目指す。大井川鉄道によると昨年の一日平均乗降客数は66人。年間では約2万4千人になるという。
今月1日、井川線は開業60周年を迎えた。かつてダム建設用資材などを運ぶ専用鉄道だったが、59(昭和34)年に奥大井の観光列車へと役割を変えた。
機関車の歯車と線路の真ん中に施設されたラックレールの歯車をかみ合わせて登坂するアプト式区間を有することでも有名だ。日本唯一のアプト区間は本線終点の千頭駅から奥大井湖上駅に向かう途中にある。アプトいちしろ駅でアプト式電気機関車が連結され、一駅先の長島ダム駅までは90パーミル(千メートルの間に90メートル上る)という日本一の急勾配を上がっていく。歯車をがっしりととらえ、ギーギーと鳴るレールの音に心が躍った。
奥大井湖上駅に観光客が書き記した「駅ノート」が何冊も置かれていた。「大自然と人工物のコラボがいい」「結婚20周年で訪れた」。旅人の思いがあふれていた。 (写真と文・堀内洋助)
紙面より一部抜粋(2019年8月22日発行 東京中日スポーツ)